金繕い(Kintsukuroi)に対しての私的考察

割れの形状を金で表す
    
平澤流金繕い研究所主宰 平澤 白水

日本には古来より金繕いとよばれる器の修理法がある。破損してしまった器をふたたび使えるように接着、形成して金で化粧をほどこす技法である。金継ぎ、金直し、うるし直しとも言われているが、器にたいして愛情を込めて修理するという意味では、継ぐ、直す、と云うより繕うの方が、個人的に好ましく思い使用している。
 金繕いの技法は茶の湯と共に桃山期頃から発展した。当時は器が大変希少で、丁寧に扱われたに違いない。壊れてしまった器を再度使えるようにしたいという気持ちは今より強かったであろう。修理に用いる接着剤は澱粉糊、膠、漆位しか無かった、なかでも一番結着力が強いのが澱粉糊と生漆をまぜた麦漆だ。普段より漆を扱っているのは、塗師、蒔絵師であるから、とうぜん破損してしまった器の修理を依頼された。
 つまり金繕いは塗師、蒔絵師が本業の片手間におこなった物であり、金繕い師という専門職はあまり存在しなかったと言える。
 さて金繕いした器が何故風流人の目をひいたのか、それは金で表した割れの形状が新たな景色となり我々に強く迫ってくるからである。
 侘び、寂にも通じるこの美意識は日本人特有のものであろうか。否である欧米人は日本人同様繕われた品々を認め逆に最高級の言葉で褒め称える。
 この人間に共通な美意識を反応させる物はいったい何なのか。私は自然の表す形状だと思う。墨色の空を切り裂く稲妻のように、金で繕われたラインは美しい。
 自然がおりなす形状の美を認識すること。それが造形を行う者にとって、重要な基礎知識になることは間違いないと言える。(ひらさわ はくすい)
開隆堂 造形ジャーナル 2007年通巻397号 アートエッセイより

金繕い・金継ぎ作品2

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